真冬の虹
コロナ禍の交通事故被害者たち
著者 柳原三佳(ジャーナリスト)
発売 2024年7月26日
判型 A5サイズ(192ページ)
仕様 ペーパーバック
定価 1,650円(税込)
被害者の過酷な現実を知り
二度嘆き、三度怒りに震える。
2021年、くり返される緊急事態宣言──。
全国に拡大する感染症との対時も余儀なくされた
交通事故被害者たちに寄り添った、取材ルポ。
コロナ禍で埋もれた事実に、
強く、真っ直ぐ、光を当てる。
【待望の書籍化】
Yahoo! ニュースエキスパートで配信された
著者の注目記事を1冊にまとめました!
本文より
◆「交通禍」
国は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)をくいとめるため、さまざまな対策を講じながら懸命に取り組んできた。しかし、その一方で、これまで多くの人の命と健康を奪い、その家族の人生を狂わせてきた「交通禍」への対策はどうだっただろうか。
今日も、全国各地で交通事故が発生し、人が亡くなり、重い障害が残るような重傷を負う人たちが新たに生まれている。
2021年、新型コロナウイルスの感染者数や死者数が毎日更新され、緊急事態宣言が発出されるたびに、私は交通事故被害者とその家族が置き去りにされているような気がしてならなかった。
【序章より抜粋】
◆時効のアンバランス
「私たちは息子が被害に遭うまで、ひき逃げに7年という時効があることなどまったく知りませんでした。どうしてひき逃げの時効が、過失で事故を起こした行為より時効が3年も早く来てしまうのでしょうか。実際に遺族の立場になってはじめて、日本の法律はおかしいことに気づかされたんです」
平野さんの話を聞きながら、はっとした。
ひき逃げ死亡事件が発生した場合、加害者には「事故を起こしたこと」「被害者を救護せずに逃げたこと」というふたつの罪が適用される。ところが時効に関しては、次のようにそれぞれにその期間が異なっているのだ。
自動車運転処罰法違反(過失致死)罪→時効10年
道路交通法違反(救護義務違反)→時効7年
事故後、すぐに救護すれば助かるかもしれない命をそのまま放置して逃げ去る『ひき逃げ』は、事故を起こしたあとに自らの意識で行う悪質な行為だ。すでに殺人罪の時効は撤廃されているが、死亡ひき逃げ事件となにが違うのだろう。私は平野さんの訴えを聞きながら、ふたつの罪における時効のアンバランスに大きな疑問を抱くようになった。
【第1章より抜粋】
◆「あした」という日
『今日福いのおじいちゃんとおばあちゃんの家に行きました。
福いのおじいちゃんとおばあちゃんのペットの犬と遊びました。
次に宿題をお父さんとやりました。
終わるころに、いとこがきました。
カードゲームをしました。
次にゲームをした後、いとことドッチボールをしました。
あしたはもっと楽しくなるといいです。』
心誠くんが記した最後の1行『あしたはもっと楽しくなるといいです』……、そこには、担任の先生によって赤色の棒線が引かれ、〝はなマル〟もつけられている。先生は、この日記の左端に、スマイルマークを添え、こんなメッセージを寄せていた。
『僕もほんとは、あなたの元気な顔が見たいです。それはみんな一緒。みんなあなたのことを想っているからね。いままでも、これからも、ずっとずっと、大好きだよ。』
9歳の彼は、「あした」という日に、どんな楽しい夢を描いていたのだろう。
この日記帳にその出来事が綴られることは、永遠にないのだ。
【第9章より抜粋】
もくじ
序 章 コロナ禍と交通禍
第1章 旅行券
第2章 パパの声
第3章 異国の地
第4章 鉄腕アトム
第5章 20年目の桜
第6章 補聴器
第7章 オリンピック
第8章 N95マスク
第9章 日記帳
第10章 贖罪とは
第11章 真冬の虹
あとがき
著者プロフィール
柳原三佳(やなぎはら・みか)
ジャーナリスト・ノンフィクション作家。
交通事故、司法問題、歴史等を主なテーマに各誌に執筆。著書に『自動車保険の落とし穴』(朝日新聞出版)、『開成を作った男 佐野鼎』『柴犬マイちゃんへの手紙〜無謀運転でふたりの男の子を失った家族と愛犬の物語』『コレラを防いだ男 関寛斉』『私は虐待していない 検証 揺さぶられっこ症候群』『泥だらけのカルテ 家族のもとに遺体を帰し続ける歯科医が見たものは』(いずれも講談社)、『巻子の言霊—尊厳ある死を見つめた夫婦の物語』(デザインエッグ社)、『示談交渉人裏ファイル1、2』(角川書店)など多数。