巻子[まきこ]

妻と過ごした最期の2920日


著者 松尾幸郎
発売 2024年4月23日

判型 A5サイズ(224ページ)
仕様 ペーパーバック

定価 1,815円(税込)


最愛のひとに突然の悲劇。
そのとき、あなたならどうしますか?

人工呼吸器をつけた妻・巻子(まきこ)が、
会話補助機を使って拾い出した文字は
「殺してください」だった──。

妻の現状に苦悩する夫。
夫に死を懇願する妻。
「人間の尊厳」に向き合った、
ある夫婦の物語。


本文より

「運命の日」

2006年7月1日、対向車のセンターラインオーバーによる正面衝突事故の被害に遭った巻子は、命が危険な状態で救急病院に搬送され、救命措置を受ける。当初、医師からは意識を回復することは難しいと言われていたが、2週間後、奇跡的に目を開けた。

しかし、人工呼吸器を装着されていたため、会話はできない。唇をわずかに動かし、なにかを訴えているようにも見えたが、どこまで意識があるのかはわからなかった。
【第1章から抜粋】

「殺人罪になる」

巻子が死んだとき、私は巻子に殉じて死んでやればよいのか? 私が先に死ねば、巻子もいっしょに死なせてやれないか? 巻子の意志に反して死なせれば、それは殺人罪になる。巻子の意志に沿って、死なせてやれば、自殺ほう助罪になる。いずれにしても、犯罪になります。

しかし、本当に犯罪なのだろうか? 健常者が自殺すれば、それは犯罪ではない。障害者が自分で自殺できないから、誰かに手助けを求める、そうすると手助けをした人が罪になる……、それは障害者に対する差別にならないか? そんなことをときどき考えます。
【第5章から抜粋】


もくじ

第1章 運命の日
第2章 ジャーナリスト
第3章 名優との出会い
第4章 富山県警
第5章 日本尊厳死協会
第6章 安らかな死を探し求めて
第7章 小川を渡ることとは
終 章 若き日と家族


著者プロフィール

松尾幸郎(まつお・ゆきお)

1936年、富山県滑川市生まれ。

富山高校、早稲田大学政経学部に学び、20代で米国留学、その後日本にもどり、日本ビクターの貿易部に就職、トランジスターラジオを欧州市場に輸出。45歳からはニューヨークに駐在し、商社ヤマタネの米国法人社長を最後に定年退職。

2001年、故郷の富山にもどるが、2006年、妻の巻子が自動車事故に遭い、全身麻痺に。以来、介護に専念しながら、被害者が遭遇する理不尽を世間に訴えるべく語り部をはじめる。

2012年6月、スイスで開催された「死ぬ権利を求める協会の世界連合」で日本人代表としてスピーチ。欧米諸国の運動家たちとの出会いをきっかけに、尊厳ある死を求める世界各国の人々の活動をレポートした書籍を日本語に翻訳。「安らかな死を探し求めて」と題して出版する。

2014年に妻・巻子は亡くなる。2015年、長女と孫が暮らす米国ニューメキシコ州に移住し今日に至る。現在肺がんで闘病中。


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